動によって引き起こされる船酔いの人体への影響はどうなのかということを明らかにするために、前述の疲労の自覚的各症状について、北海道大学の練習船の各航海において延べ一三四人、八一七件のアンケート調査を行うと同時に船体運動と波浪の計測を行った。そして船酔いと疲労の自覚症状との関係、船体の大自由度運動、有義波高、波の出会い平均周期が疲労の各自覚症状や船酔いの発生に及ぼす影響、さらに船体運動に対する人体の慣れ等について統計的分析を行った。
3・1 疲労の各自覚症状と船酔いとの関係
航海中における疲労の身体的、精神的および神経感覚的症状の発現状況の変動は船酔いの発現と似た変動を示した。どの航海においても疲労の各自覚症状と船酔いとの間の相関が高く、船酔いと食事との相関も高いが、睡眠、波浪、うねり階級との相関は低かった。
全航海を通じて、身体的症状においては「頭が痛い」「全身がだるい」「息苦しい」「冷や汗が出る」の項目が船酔いと強い相関を示した。
精神的症状では「頭がぼんやりする」「考えがまとまらない」「一人で居たい」「物事に熱心になれない」の項目、そして神経感覚的症状では「動作がぎこちなくなる」「足元が頼りない」「めまいがする」「きちんとしていられない」の項目が船酔いと高い相関を示した。
3・2 船体運動と船酔い、疲労との関係
船体の大自由度運動の測定値として、パワースペクトルの一次モーメントM値を用いた。この各M値と有義波高、波の出会い平均周期、疲労の各自覚症状や船酔いとの相関を見ると、上下方向、左右方向の船体加速度は、疲労の自覚症状、船酔いに対して正の相関を示すが、波の出会い平均周期との間には負の相関を示した。
相関係数の値から、船体運動は疲労の各自覚症状より船酔いに対して強い影響を及ぼし、船と波との出会い周期が長いほど疲労の各自覚症状や船酔いの発生が少なくなっている。
また船酔いや疲労の各自覚症状の単回帰分析結果等を考慮すれば、船酔いや疲労の各症状の発生に関しては、船体の六自由度運動のうち船体加速度が大きな影響を及ぼしている。そして周期の短い動揺ほど船酔いや疲労の各自覚症状を発現させやすいことが分かった。
3・3 船体運動に対する慣れの船酔いへの影響
船酔いは船体の動揺によって生じる加速度と密接な関係があることが分かったが、一週間程度の乗船において、船酔いの発現は出港からほぼ一〜二日後に最大値を示すことが多く、その後(出港五日後)にこの航海の最大の有義波高。加速度の発生があっても船酔いの発現は一〜二日目より低い。
このことは船体運動、特に加速度に対する人体の慣れが影響していると考えられ、身体の船体運動への慣れは、時間に関する指数関数で近似された。
しかし、船酔いが疲労の自覚的症状と類似の症状を示し、特に「頭がぼんやりする」「考えがまとまらない」(精神的症状)や「頭が痛い」「足下が頼りない」「めまいがする」(神経感覚的症状)等の発現をすることに注目すれば、船に不慣れな乗組員や熟練の乗組員においても、比較的長い間陸上生活をしていた場合など出航一〜二日間の判断能力、行動能力が低下していることに気をつける必要があろう。
4、 見張り不十分が原因とされる漁船の観実事故の要因分析
衝突事故の原因として見張り不十分が占める割合は約五二%と高い。漁船において見張り作業は、特に一人乗りで操船を行うような状況では、漁労作業中は漁労作業とともに行わなければならない。
また漁場に向かう途中や操業を終えて帰港する場合においても、漁労機器の操作、調整や漁労の準備、後かたづけ、漁獲物の処理等の作業とともに行わなければならない状況が実態である。見張りが衝突事故防止のために重要であることは言うまでもないが、漁船において見張り不注意がどのように発現するのか、漁船漁業における見張りを妨げる要因について漁労環境との関連において海難事例より要因分析をした。
昭和六十二年一月から平成六年六月までの海難審判裁決録より、霧等による狭視界時である場合や

 

 

 

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